赤シートはなぜ効くのか
本文の赤いマークは、タップするとめくれます。
参考書を三回読んだ。蛍光ペンも引いた。それなのに、模試になると答えが出てこない。
資格試験の勉強で、こんな経験はないでしょうか。原因は、やる気でも記憶力でもありません。勉強のやり方に、落とし穴があります。
この記事の結論
- 読み返すだけでは、「わかった気」になるだけで残らない
- 答えを隠して思い出すほうが、記憶はずっと強くなる
- 赤シートは、それをいちばん手軽にやる道具
- 隠すのは1文に1〜3語。同じページは日をまたいでもう一度
読み返すと「わかった気」になる理由
読んでいる間、答えはずっと目の前にあります。文字をなめらかに追えるので、頭は「もう知っている」と感じます。
これが落とし穴です。すらすら読める感覚と、何も見ずに答えを言える力は、別のものだからです。心理学ではこれを流暢性の錯覚と呼びます。試験会場では、教材は閉じられています。
学習法を幅広く比べた研究では、「教科書を繰り返し読む」「蛍光ペンで線を引く」は、かけた時間のわりに効果が低いと評価されています(Dunlosky et al., 2013)。多くの人が最初に選ぶやり方が、いちばん割に合わない可能性があるのです。
思い出す練習そのものが、記憶を強くする
同じ研究で高く評価されたのが「思い出す練習」でした。教材を閉じて、頭の中から答えを引き出す作業です。心理学では検索練習と呼ばれます。
ここが意外なところです。思い出す作業は、確認のためだけではありません。 思い出すという行為そのものが、記憶をたどる道を太くします。これはテスト効果と呼ばれ、長く報告されてきました(Roediger & Karpicke, 2006)。
- 「読み返す」より「一度閉じて思い出す」ほうが、後日の成績が良い傾向(Karpicke & Blunt, 2011)
- 多数の実験をまとめた分析でも、読み直しよりテスト形式が有利(Rowland, 2014)
効果の大きさは教材や条件で変わりますが、方向はそろっています。
赤シートは、その練習をいちばん手軽にやる道具
赤シートがやっていることは、ひとつだけです。答えを一時的に見えなくして、思い出すことを強制する。 心理学でいう想起です。
問題集を解くのも立派な練習ですが、準備がいります。赤シートなら、いつもの教材をそのまま使えます。シートをかぶせた瞬間に練習が始まる。 通勤電車の5分でも成立します。
隠す量は「1文に1〜3語」
- 隠しすぎ: ページが虫食いになり、文の意味が追えない。手がかりがなく、ただ苦しい
- 少なすぎ: ほとんど読み返しと変わらない
- ちょうどいい: 文の骨組みは残し、「ここを答えられたら理解している」と言える語だけを消す
一度で終わらせず、間隔をあけてもう一度
もうひとつ大事なことがあります。同じページを、一日で何度もめくって「できた」で終わらせない。
今日思い出せた語も、数日たてばあやふやになります。そこでもう一度思い出すと、記憶はさらに強くなります。これが間隔効果です。詰め込みより、日をまたいで分ける分散学習のほうが後まで残ります(Dunlosky et al., 2013)。
どれくらい間をあけるかは、試験がいつかで変わります。先の試験に備えるほど、間隔は長めがよい傾向が報告されています(Cepeda et al., 2008)。
実践は、こう考えると迷いません。
- 今日思い出せなかった語 → 近いうちにもう一度
- すんなり出てきた語 → 少し先に回す
この記事のやり方を、アプリでやると
| 記事のポイント | 紙の赤シート | 暗記ストア |
|---|---|---|
| 答えを隠して思い出す | 赤いペンで塗って、シートをかぶせる | ◎ 撮るだけ。AIが赤い帯で隠す |
| 隠すのは1文に1〜3語 | 自分で加減する | ◎ AIの目安が1文に1〜3語 |
| 日をまたいでもう一度 | 自分で覚えておく | ◎ 忘れる前に自動で出題 |
| 間違えた語だけ早く戻す | 付箋やチェックで管理 | ◎ 「もう一度」で10分後に再出題 |
塗る作業は、道具に任せていい
正直に言えば、赤シート用の教材を自分で作るのは手間です。重要語を選び、一語ずつ塗る。講義資料が何十ページもあると、塗り終える前に疲れます。
どこを隠すかの判断は学習の一部ですが、塗る作業そのものは道具に任せてかまいません。 iOSアプリ「暗記ストア」は、PDFや教材の写真から重要語を自動で赤く塗り、赤シート学習と、間隔をあけた復習まで引き受けます。スマホで赤シートを使う方法は「参考書をスマホで赤シートにする3つの方法」にまとめました。
まずは、今日開いた一ページから試してみてください。
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). The power of testing memory: Basic research and implications for educational practice. Perspectives on Psychological Science, 1(3), 181–210.
- Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331, 772–775.
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463.
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students' learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention. Psychological Science, 19(11), 1095–1102.